腫瘍血管の制御による新たながん治療法の開発を目標として、血管の形成機構の解明に取り組んでいます。
高倉研究室は研究レベルが非常に高く、ラボメンバーのそれぞれが専門分野の最前線の研究を行っています。
近い将来に一流誌に発表されるであろう発見の現場に立ち会えることも多く、研究者として刺激的な毎日を過ごしています。
大学院博士課程から血管の研究を始め、今ではこの細い管にすっかりはまり込んで抜けられなくなってしまいました。血管という名の入り組んだ迷路の奥に隠された真実を求め、探求する日々を楽しんでいます。
血管新生は発生過程のみならず、癌や慢性炎症性疾患をはじめとした様々な病態形成に深く関与しています。血管新生の制御機構が明らかになるに伴い、血管を作ることや壊すことは容易になりつつあります。しかしながら、乱雑に造られた血管は形態的にも機能的にも未熟で、発生過程で美しく構築された血管網とは異なります。真の血管再生を考える上では、血管を多数の管からなる高次組織と見なし、そのパターニング機構を解明する必要があります。
血管パターニングの関連因子として我々が注目しているのが、生理活性オリゴペプチドであるApelinとその受容体のAPJです。ApelinとAPJは血管の形成過程で特異的に発現が上昇していますが、血管新生を誘導する活性はほとんどありません。そこで、ApelinとAPJの発現を詳細に解析したところ、Apelinは動脈血管に、APJが静脈血管にそれぞれ特異的に発現していることが明らかになりました。成熟個体の血管パターニングは、神経-動脈-静脈の三者の併走性によって特徴付けられていることが、古くから認知されています。皮膚の血管発生モデルでは、初期の原始血管網の形成から神経の進展に伴う近傍血管の動脈化の誘導というように、神経-血管での相互作用が血管パターンの構築において重要な役割を果たすことが明らかになっています。しかしながら、静脈がどのようなメカニズムで動脈近傍に形成されるかは明確になっていません。我々はこれまでに、動脈-静脈間にApelin / APJ signaling が作用し、静脈血管がスライドするように動脈近傍に引き寄せられることを見いだしました(H.Kidoya, et al. Developmental Cell. In press)。この「血管束移動」と名付けた新しい現象が、血管のパターニングの本質を担っていると考え、どのような機序にて血管の階層構造が構築されていくかをApelin / APJ系を中心として解析しています。
胎生15.5日齢の胎児の皮膚の動脈(赤)、静脈(青)、リンパ管(緑)を染色した写真。血管は美しい階層性を呈しており、動脈と静脈の間には整然とした並走性が認められる。